日に焼けた、筋肉の付いた太い腕。 スルリと肩を抱く長い腕は、友人を慰める事以外の意図を含まず、ゆっくりと俺を抱き寄せた。 元気出せよと困ったように笑いかけた親友に、俺の意思を無視してボロボロと転がり落ちる涙を止めようと躍起になる。 「お前に似合う女が、もっと他にいるって」
見当違いの慰めを口にする彼に、俺はますます泣けてきて。 |
笑いあう合間に、ふと彼の目を見つめてみる。 こちらも笑顔のまま、あちらも笑顔のまま。 そのうちに、こちらもあちらも表情が落ちて、彼の目は忙しなく中空を彷徨い、行き場を見失い、観念したように俺の目に戻ってくる。 「な…、何?」 瞬きの増えた目が、戸惑いと羞恥を乗せたまま、俺の作った不自然を問い質し、やがて彼は沈黙に耐え切れなかったかのように口を開いた。 「…別にィ」
にっと笑って再び話題を提供すれば、ホッとしたように顔を擦った。 |
自転車で二人乗りをする。 幼馴染という免罪符は、高校生になった今でもすぐ傍に彼の体温を感じる口実となってくれていた。 行きは俺、帰りは彼。 どちらが言い出したわけでもないこの分担は、低血圧な彼が事故を起こすのを防ぐ為だ。 帰りはゆっくり。 俺は彼の後ろに腰掛けて、のんびりとその日あった事を話して聞かせる。 夕日に染まる、その項に向けて。 |
初めて好きになったのは小学校の担任の先生だ。 大学を出たばかりだった若い先生は、いつだってお日様の匂いがしていた。 教室にいるより運動場で遊ぶ方が好きだという、とてもとても元気な人だった。 きっと、だから好きになった。 あの、明るい笑顔に惹かれて。 勿論、叶う事のなかった片想いだったけれど、俺が好きになる人はいつだってどこかしら、あの人の面影を纏っている。 暖かな、お日様の匂いも一緒に。 |
僕には、誰よりも大切な人がいる。 それが、どこの誰かなんてことは、本人にすら言えない。 誰にも知られないように、ひっそりと、様々な理不尽から彼を守ってきた。 彼の人生が割と順風満帆なのは、少しは僕の努力のおかげかな、と思う。 でも、きっと本人にこのことが知れたなら、余計なことを、と怒り出すに違いない。 彼の人生を、彼の与り知らぬところで小さく大きく勝手に変えてきたのだから。 だから、僕のしてきたことは、絶対に誰にも秘密にしたまま、墓の下まで持って行こうと思っている。 |
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