爪痕

 着替えの時に困るからと何度言われても聞かなかった報いだろうか。
 背中がひりひりする。
 シャワーを浴びる時に鏡を覗き込んだら、くっきりとミミズ腫れができていた。
 左右に4本ずつ、何の言い訳も利かないラインだ。
 お前のあの、勝ち誇ったような顔。
 でも、分かってないな。
 お前につけられたモンなら、何だって俺は嬉しいんだぜ?
 今日はダチに、目一杯惚気てやろう。

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堕天使

 矢鱈綺麗な顔をしていた。それが全てではないけれど、まず目を奪われたのはそこにだった。
 だから、今でも奴の顔が一番好きだ。随分と変わってしまって、あまり面影にも残っていないけれど。

「今でも俺が好きなの?」

 呆れたみたいに奴は俺に問う。
 背が伸びて筋肉がついて、その上甘さを削ぎ落としたその容貌で。
 でも、俺の答えは決まってる。いつだって、変わらず『応』だ。 奴が俺を心底から愛してくれていることを知っている、なのに今更どうして奴を厭おうか。
 奴は俺のために地上に堕ちた、最上の天使だ。


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 酒の力ってのはつくづく偉大だと思う。
 起きたら隣に人間が寝ていた。
 それも裸の男で、俺としてはこれまでずっと親友と位置付けていた奴だ。
 …俺も全裸ってことは、ヤっちまったってことでしょうか。
 隣のこいつを叩き起こして見れば真偽ははっきりする、でもそれってかなり勇気がいるって。
 昨日までは、確かになかった紅斑のついている、自分の体を目の当たりにしていては。

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指輪

 何度も光に翳して見てやがる。
 物凄く嬉しそうなその顔。
 一回だってねだられたことなんてなかったけれど、随分我慢していたのかなと思う。
 普段は言いたい事をズケズケと口にするくせに、変なとこだけ遠慮して。

「なくすなよ」
「なくす訳ないっすよ、こんなの」

 大事そうに、左手ごと胸に抱え込む、とても幸せそうに。
 そんなお前が見られるんなら、プラチナの指輪の一つ、安いもんかな。


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泣き顔

 普段は決してそんな顔を人に見せる奴じゃないんだ。
 必死で何かを堪えるような、余裕ゼロの表情。
 こいつから余裕を奪っているのが自分だと思うと、申し訳ないような、それでいて何処か嬉しいような、不思議な気分になった。

「…何笑ってんだ」

 今にも泣きそうな顔なのに、その勝ち気な性格が簡単に直るはずもなく、しっかりと睨み付けて来る。
 …参ったね。
 何でもないよと誤魔化して、一際深く体内を抉ってやった。
 くぐもった悲鳴と共に、ついにお前は目尻から透明を零した。


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