告げた瞬間、困ったように伏せられた。 何と答えようかと迷って、黙りこくってそれでも何度か口を開閉して見せた。 いいんだ、分かってる。 お前はとても優しいから、どうすれば俺を傷つけずに済むかを考えてるんだろう? 「…ゴメン、困らせたいわけじゃないから」 伝えたかったなんて迷惑だろうけど、これ以上お前の側に居るつもりなんてない。だから、そんな顔しないでくれよ。 「…居なくなるって、どういう事?」
俺の意思とは関係ないみたいに喋る口に反応したお前は、その綺麗な眼に影を作っていた睫毛を上げた。 |
隣りに人が寝ているなんて何年ぶりだろう。 荒み切った生活のせいで、人の気配のするところでは眠れなくなって久しい俺が。 こんな、ガキの寝顔を拝む日が来るなんて。 明日天変地異が起こったって、俺は驚けそうにない。 一人では寝られないと言ったこいつが、寝付いてもう一時間近くが経とうとしている。 俺だって、寝たいんだぞ? なのに、俺が身動ぎする度にお前は俺の服を握り締めるから。 俺は溜め息をついて、寝不足必至の添い寝を続ける覚悟を決めた。 |
「やっぱおかしくねー?」
金に染められた頭には、確かに不釣り合いな。
「いーンじゃない? 大体、俺だってドレッドヘアなんだから、服装とのミスマッチはお前と五十歩百歩だ。 「んなことねーって」
つか、思ってたより格好良いって、詐欺じゃねぇ? |
こいつがリップなんてモンを進んでつけるとは思えなかった。それも、グロスタイプのツヤツヤした奴を。 「あっ、ひょっひょたすへて〜」 …多分、ちょっと助けて、だと思う。 「どした、それ」
一見プルプルしているように見えるが、実際にはベタベタとくっつくような感触である事を俺は知っている。 「せんひゅうのおはえっひぇ、ひょんなひふん?」 『先週のお前って、こんな気分?』
その通りだ。 「あ、おれら、ひゃんひぇひゅひす?」
馬鹿言ってんなと、その頭を一つ叩いた。 |
娼婦のようだと言われている事くらい、承知していた。 数知れない不特定の男達の間を行き来する、売女だと。 それがどうしたというんだ。 俺がそのことで、誰に迷惑をかけただろう。男達でさえ、分かっていて相応に俺を扱うのだから。 『折角美人なんだから、一人に絞れば?』 そう、言われた事もある。 『俺もそう思うよ』
答えた俺に、彼は不思議なものを見るような目を向けた。 |
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