愛しい背中 |
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今日の金子はどっか変だった。 好きだとか付き合ってだとか言ってきたのはいつもと同じ、だが、いつもと違って酷く切羽詰っていた。挙句の果てに、『好きだって嘘言って』と。 普段は冗談に聞こえるように上手く喋る金子なのに、今にも泣き出しそうな面で俺に縋って。 撥ね付けたからって、本当に泣き出すとは思わなかったけれど、自尊心の高い多感な年頃の金子に、そんな事を言わせた事実が俺の良心を痛ませた。 のらりくらりとかわして来たけれど、俺も金子を憎からずと思っているから。 ただ、彼の想いに応えるのは俺の知っている世間の良識ってヤツが許さない。無視して突っ走るには、俺は分別を知りすぎていた。 でも、『嘘』なら。 金子が言うように、これは彼が持ちかけた冗談で、本気の言葉ではないと言うなら。 俺も口にする事ができるだろうか。 生徒に、同性に対する愛情を。 金子は、嘘でも嬉しいのだと、そう言った。無理しているのが分かる、泣きそうに歪んだ笑みで。そう、金子は無理をしていると知っているのに。 俺は自身の狡さに嫌気がさして、思わず溜め息をついた。 自分の保身の為に、ずっと年下の子供を苦しめている。許してくれるからと、甘えている。 もう、やめにしよう。 金子が持ち出した賭けに乗って、己の将来も賭けてみよう。 それくらいの受動性は大目に見て欲しい、自ら飛び込むには、お前の隣はあまりに苦難に満ちているだろうから。 「…わかった」
そう頷いた。 「…頑張れよ」
聞かれないよう、呟いた。
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