綺麗な人−02

 俺の下の先生は、本当に色っぽかった。女の丸さも、白さもないけれど、張りのある筋肉は、不思議と俺の掌に吸い付くようだった。
 先生は声を殺して、潤んだ目で俺を見上げて。普段はワックスで固められている髪が、ソファに押し付けられて乱れている。俺も先生も、息なんて疾うに上がっていて、短く荒い呼吸音が、広く暖かな部屋を満たしていた。
 体のどこを触っても小さな、或いは大きな反応を示す先生は、きっと緊張のせいで酷く敏感になっている。それでも理性は捨てきれないらしく、時々思いつめた目をしていた。

「湊…、俺のコト…」
「…あぁ、好きだ」

 訊くまいと思ってもつい口をついて出てくる疑問符。今までの癖っていうのは恨めしい。女の子が相手ならば酷く優しく返される言葉も、先生が言うと切ない響きを纏っていた。
 きっと、仕方がないんだと思う。俺も先生も、少なからずこの関係に背徳感を抱いているのだから。

「平気? つらく、ない?」

 体でも、心でも。
 無理してない?
 額に張り付く髪を指先で払ってあげる。少し目を細めた先生は、甘い溜め息を吐き出した。

「イけないの、が、ツレェ…」

 きっとそれだけじゃないはずだ。男に組み敷かれている不安は消えないままだろうし、服を着終わった後の、日常への苦さだって抱いている。
 先生はポーカーフェイスで、何を考えているのか分かりにくいけれど、その瞳だけは雄弁に俺に語りかけてくる。
 俺はそれに気がつかない振りをして、先生の言葉を鵜呑みにしてあげる。
 それを、先生が望んでいるから。

「…じゃあ、湊、俺の、触って?」
「う…」

 きゅっと一瞬だけ俺の服を引っ張った先生は、でも迷わずに俺の熱に手を伸ばした。少しだけひんやりとした先生の手。包まれて、脈打つのが分かった。

「…スゲ……」

 無意識に零れたのだろう先生の声に苦笑する。先生の方が、余程大きいくせに。

「こんなの、…はいる、の、か…?」

 眉を寄せて、俺を窺って。それから、ぎゅっと目を瞑った。
 どうしたんだろ?

「みなと…?」
「…や、無理、今日は無理!」
「み、港!?
 うん、無理ならいいから! 大丈夫、しないから!」

 何でいきなりそんな事を言ったのか、察しがついた。
 多分、自分で確認したのだ。俺の下で、何かごそごそやっていたから。
 全く、先生って、何て。

「大丈夫、そんなの全然平気。
 俺、充分嬉しいから」

 何て愛しい、俺の綺麗な人。


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