POP LOVERS 2 |
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連日空は晴れ渡っていた。冷房のない教室は無料サウナ状態、そんな中返されるテストなど点数に一喜一憂するのみ、見直しまでする気が起きるわけがない。 平均点前後をうろうろしていたテスト結果を忘却の彼方に押しやることにした俺は、現在部活を満喫している。試験週間という名目で練習できなかった間、どれほど辛かった事が。 市営プールに行こうにも「アンタには練習より勉強の方が必要だって、監督が判断したんでしょう?」という姉の一言で妨げられた。確かに勉強が必要なければ特別なカリキュラムでも組んで練習させてくれただろう。自分の学力不足が祟ったわけだが、普通の学校なら練習優先だと思うぞ、スポーツ特待生なら。 二週間振りに泳ぐ水の中はこれ以上なく心地良く、正直タイムなんか二の次で只管水中を進む気持ちよさを追いかけていた。 「うわ、先輩自己ベスト更新ですよー」
壁にタッチして顔を上げると、プールサイドで後輩がストップウォッチを構えて立っていた。コースを横切って傍に寄れば、其処にしゃがみ込んで。
「遠山、お前俺のタイム覚えてんのか」
実際、俺は泳ぐのが好きなんであって、試合はどーでもいいところがある。
「で、先輩、何かイイコトあったんスか?」
俺のタイムが伸びた時は、機嫌がいい時。知ってる遠山は尋ねてくれたわけだけど、今スゲェ幸せかって訊かれると、そこんトコは自分でもよく分からない。幸せだと言い切るには、今の状態は微妙なような。
「や…、お互いに惚れあってんのは確認したんだけど、相手には付き合っている奴がいるっつー…」
改めて言われると、ちょっと不安になる。
「…ケド、先輩はその子の事、好きなんスよね…」
流石に相手が誰とは言えないけど、好きな奴を好きって言うくらい、何の問題もないと思うんだけど。
「サンキュ。 俺も中の一人と付き合った事がある。二級上の女子部員で、一年の時に泳いでたら、いきなり食われたって感じで始まった。顔にもスタイルにも自信があったらしいけど、俺は既に慎吾に惚れてたから。やっぱり適当に別れた気がする。
「別に、興味ないッスよ、あんなの。 ビデオに撮ってやるから自分の型を研究しろって言われながら、もう三年。一回も見た事なんかない。本当はしないといけないって分かってるんだけど、プール以外で泳ぐこと考えるの嫌なんだ。頭で考えて泳いでるわけじゃない、監督の言うように泳ぐ努力はして、それでタイムが縮んだっていうのは理解してる。でも、そんな泳ぎ方したってちっとも面白くないんだ。勝負の世界はそんなモンじゃないって、誰もが言うんだけど。
「やっぱ、先輩天才なんスね。
遠山の髪を掻き回して、他に言う言葉も見つからず苦笑した。
「ねぇ、先輩に触ってみてもいいっスか」
好きにしろと答えれば、なんか改まったように失礼しますって言って、俺の腕に手を伸ばした。筋張った男の手が自分の腕を撫でて上がるのは初めて見る光景で、言いようのない違和感がある。女の手なら、見慣れてるんだが。
「うわー、伊達じゃないッスねー。 俺は無駄な筋トレって嫌いで、そっち方面はきちんと勉強してる。どこの筋肉がいって、どこがいらないか。遠山は俺なんかより随分ガタイがいいけど、闇雲に鍛えたのか泳ぐには不要な筋肉がいくらか発達している。
「でも、悪くないんじゃね? 遠山の胸筋に手をあてる。鼓動と一緒に振動してる、小麦色の綺麗な体。女だったら、手に入れたいと思うだろう逸品だ。
「せ、先輩っ。
促されて目を向けて、絶句した。勃ちかけって、おいおい。お前は自分よりデカイ野郎相手に欲情すんのかよ。
「そう警戒されんのもアレなんスけど…。
何でお前が知ってんの!?
「そんな、蒼白なツラしないで下さいよ。 何が嬉しくてこんな手近で…。俺も人の事言えないけどな、慎吾は俺なんかより、ずっと男前だぞ?
「…矢嶋サンより、俺は先輩の方が好きっス。
げっそり疲れて、そんな軽口を返した。
「俺、気ィ長い方なんで。 ヒョイと遠山は片眉を上げて、溜め息をついた。
「ハイハイ、できるだけ、先輩の負担になんないように心掛けるっスよ。 良くも悪くも、独特。ソコがいいんスけど。
「そんじゃ、今日は失礼するっス。
ヒラヒラと手を振る遠山を見送って、暮れていく太陽に気がついた。
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