POP LOVERS 3 |
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空はどこまでも青く清々しいのに、その場の空気は重く暗く凍っていた。 プールの更衣室の裏側、男が二人、対峙している。二人共長身の部類に入り、服の上からでもしなやかな筋肉を纏っている事が窺えた。
「…お前、どういうつもりだよ」 発された低い声に動じた様子もない。どこか飄々とした男は、その要望に似合わぬほど強い眼差しで受け流す。
「…っザケンナよ、裕輔のことだよ。 そう言いながらも、あからさまな挑発を孕んだ笑みを向けた。 「アンタこそ、あの人どーするつもりなんスか」
同じ高校という以外に共通点のないはずの二人は、ある人物を挟んで因縁浅からぬ仲にあった。
「女と二股にする気だってんなら、俺が貰う」
憎々しげに、歪んだ表情。
「裕輔は、俺のだ。
同じく相手のシャツを掴んで、額をぶつける。既に敬語ですらなくなり、一触即発の空気。
「モノとか言ってるワケじゃねーよ。 僅かに瞼を伏せた相手に、不快感を隠そうともせず男は柳眉を逆立てた。
「何であの人に惚れてんのに、女なんかと付き合ってんだよ?」 不意に割り込んできた三人目の声。振り返った二人に視線の先に、すねの辺りまでトラウザーズを捲り上げ、タンクトップ一枚を着込んだ男子生徒の姿。
「裕輔!?」
二人は弾かれたように互いから手を離した。
「そこで着替えてんのに、大声で怒鳴りあってちゃまる聞こえだって。 スポーツドリンクのペットボトルをちゃぷちゃぷと揺らしながら、日陰まで足を運んで。
「つーか、お前ら全く不健全だな。 半眼にした目を順に二人に向け、裕輔は溜め息をついた。 「慎吾、遠山に絡むんじゃないよ。何もないんだからさぁ」 ねェ、と遠山に水を向けた裕輔は、コンクリートの上に腰をおろした。 「そう断言されるのも、何か悲しーんスケド」
苦笑いを見せ、同じように座り込んだ遠山からは、すでに戦意は喪失しているように見えた。
「だってよぉ…」 傍らの後輩に凭れながら、恋人候補の不誠実を詰っている姿は、お世辞にも誠意のある態度とは言えない。口元にも、チラリチラリと悪戯な笑みが影を作っている。
「だから、そーゆーのやめろって! 裕輔と遠山、二人分のツッコミ。綺麗にハモったタイミングに、慎吾はますます苛立った。
「そんなの俺の勝手じゃん、別に付き合ってたワケじゃねーんだし。 今も大して思ってないけど、というのは少し寂しげな裕輔の笑みが伝えた本音で、それは慎吾の想いを信じていないからではなく、世間への諦めが作らせた一種自衛本能ともいえる裕輔の心理だったが、慎吾と遠山はそうと気がつくには同性同士の恋愛という特殊な状況に関する経験が浅すぎた。
「先輩…」 さっきの、何とかしろ云々は冗談だから、気にしなくていいよと裕輔は笑った。
「…お前、そいつと付き合うのかよ?」 今までもそうだったし、と気のない風に言って、立ち上がった。
「慎吾が好きだって言ってくれてる、俺は男だ。でも、お前はゲイってワケじゃい。
立ち去ろうとする背中に、慎吾は唇を噛んだ。
「…後悔って、じゃあ、先輩はしてんスか!」 肩越しに振り返った微苦笑。
「俺は、女より男が好きだ。
世間一般と同じが一番だよ、呟いて、裕輔は姿を消した。
並んで日陰に座り込んで、遠山は慎吾に問うた。
「…俺たちは、男に惚れたのはアイツが初めてで、アイツはそうじゃないってコトじゃねーの?」 慎吾は両脚を放り出したまま、投げやりに言った。
「…大変だ、じゃあ、先輩が喋る相手全部に嫉妬しなきゃなんねーの」 暫くの沈黙の後に、遠山が出した答え。あまりにあっけらかんとしたその声音に、慎吾はまじまじと遠山を見詰めた。
「あれ、何驚いてんスか。 あっさりと結論を出した遠山に、慎吾は眉を顰めたけれど。そんなライバルを、遠山は嘲笑った。
「矢嶋サン、実は本気じゃなかったんじゃないっスか?
あんなに俺を牽制しといて。 「勃つ勃たないが全てじゃないでしょーケド、結構重要だと思いません?」
畳み掛けるような遠山の台詞。
「矢嶋サンがいかねーんなら、俺、押していきますから。
顔を上げない慎吾を一瞥して、その場を後にする。
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