CAT 4

 おい、と声を掛けられて、意識を飛ばしていた自分に気がついた。
 すぐ傍に心配そうな寺尾サンの顔があって、あまりの近さに少し驚いたけれど。

「大丈夫か?」

 問われた言葉に、そういえば最中に気を失ったんだっけと思い出した。
 時々、良すぎて気絶する女とかいて、嘘だろとか思ってた俺だけど。
 そりゃあ、俺は良すぎてってワケじゃないけど、ワケわかんない感覚に翻弄されてたのは間違いなくて。
 …死ぬほど恥ずかしい…。

「だ…、大丈夫っス…」

 寺尾サンの視線から顔を隠したくて、ごそごそと体勢を変えた。
 動いた拍子に、太腿にとろりと垂れたモノがあって。

「う、ァっ…!」

 思わず上げてしまった悲鳴、気がついた寺尾サンが、バツの悪そうな顔で謝ってくれた。

「お前、イった拍子に中、出しちまって…。
 つか、あれは反則だって…」
「な、にがっスかァ?」

 うぅ、聞きたくはないんだけど…、聞かなきゃなんだいんだろうな、多分。
 動く度にトロトロと流れ出すアレが恥ずかしくてしょうがない。手でそんなとこ押さえるわけにもいかないし。
 必死で後ろを締めて、動かないようにシーツを握っていたら、寺尾サンが一旦ベッドを離れて、タオルを濡らして持ってきてくれた。

「…ちょっと、我慢しろ」

 何を?って思ったのは一瞬。
 布団を剥ぎ取られて、クイッと腰を持ち上げられた。

「わ…っ、やぁ…!」

 そんな格好とらされた事もショックだったけど、更にそこに指を入れられて、中身を掻き出されたときには羞恥心で死ぬかと思った。
 ちょっとどころの我慢じゃないっスよォ、寺尾さァん…。

「ん…っ、あ…、ぅ…っ」

 粗方出し終えたのか、今度はタオルで拭ってくれて。処理されてるだけなのに、喘いでるみたいな声が出てしまった。

「…良かった、切れちゃねーみてーだ」

 そんな観察まで…!
 掛け直してくれた布団に、頭まで潜ってしまった。恥ずかしすぎる…!
 寺尾サンは笑ってるけど、こっちはそれどころじゃないですよ。

「お前、気がついてるか?
 耳も尻尾も、なくなってるぞ」
「…えっ!?」

 ガバリと布団を捲り上げて、ベッドの上に起き上がった。気持ちとしては飛び起きたかったけれど、初体験後の身体は思うようには動いてくれなくて。
 そろそろと、その上寺尾サンの手まで借りてどうにか座った。

「ホントだ…」

 パタパタと自分の頭や腰の辺りを触ってみる。ここ数日、俺にくっついていた、あのフワフワのオプションは消え失せて、いつもどおりの手触りがあるだけだった。
 て、コトは、やっぱり。

「俺の好きなヒトって、寺尾サンだったんすね…」
「そーみたいだな。
 ……どーする?」

 どーするって?
 訊かれた意味が分からなくて首を傾げて寺尾サンを見上げたら、これからだよ、と言われた。

「俺もおまえが好きで、お前も俺が好きで。
 つき合うとか、そーいうのするか?」
「…!
 いいんスか? 俺のコト、恋人にしてくれるんスか?」

 望んではいけないのだと、考えないようにしていたのに。
 だって、寺尾サンって凄くモテるから。
 一時期に何人ものオンナと、本気で付き合ってるのって見た事はなかった。というより、寺尾サンが誰かと本気で付き合っていたことなど、一度も見た事がないような気がする。

「……馬鹿、だから、俺はお前が好きだって…。
 だから、お前以外に本気になるわけがねーだろ」

 もう、初めて寺尾サンに出会ってから4年が経つ。その間、ずっと俺一人を想っていてくれたって事なんだろうか。

「どうしよう、凄く嬉しい…」

 顔が笑うのを止められない。
 ニヤけている俺を寺尾サンは呆れたように眺めて、じゃあ、お前、今日から俺の恋人な、と言った。

「言っとくけど、俺は独占欲強いからな。
 浮気とかしやがったら、どうなるかよく考えとけよ」
「そんなの、しませんよ。
 俺、寺尾サン以上に好きな人なんて、いませんもん」

 無意識に思いつめて、身体に変調を来たすほどに慕っていた。これ以上に想える相手など出来るとは思えないし、一生寺尾サンについてくと決めている。
 寺尾サンが俺をいらないと思うまで、離れる気なんてなかったし、ましてや裏切るなんてとんでもなかった。

「俺は、寺尾サンが本当に好きです。
 寺尾サンのためなら、きっとなんでもできる」

 恋人になれなかったとしても、自覚した気持ちは、寺尾サンから離れることを強硬に拒絶しただろうが、殺さなくてはいけないなら殺すつもりだった。
 それくらい、彼から離れて生きることなど考えられない俺なのに。

「好きでいて、いいンスね…」

 憚りなく、好きだと言える事が嬉しい。
 恋人だからと言って甘えるつもりは毛頭なかったけれど、感情を表していいというだけで、とても幸福な気持ちになれる。
 俺から抱きつくことなんて、まずそうそうはないだろうけれど。

「寺尾サン、ギュッて、してくれませんか」

 初めての次の日、そんなときぐらいは。
 猫へと変じていた時の甘えた気持ちを引き摺って、俺は寺尾サンの腕の中へと潜り込んだ。


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