CAT 3

 気がついたら、ベッドで寝ていた。
 傍に寺尾サンが座っていて、コーヒーを手に俺を見下ろしていたらしかった。

「起きたか」

 俺が目を開けて数秒、ぼんやりしていたらしい寺尾サンは、それを誤魔化そうとはせず、俺に調子を尋ねた。

「や…、よく、わかんないッス…。
 俺…」
「一橋が、悪かったって言ってたぞ。
 アイツが素直に謝罪するなんざ、明日は雨だな」

 寺尾サンはちらりと笑みを見せ、それから、真剣な顔して、俺に訊いた。

「…お前、俺に抱かれる気、あるのか」

 と。
 俺は、なんて答えて良いのか分からなかった。
 寺尾サンに抱かれるってコトは、あの男みたいに、汚い姿を晒すってコトだ。
 そんなこと、耐えられそうにはなかったけれど、でも、俺には選択肢なんて、そう残ってなかった。
 自分で自分を軽蔑するか、このまま人間であることをやめちまうか。
 どっちも、気が狂いそうになるような選択だった。
 女と見紛う程のあの男が、あれだけ汚らしく見えた。ガタイが良くて、目つきが悪くて。その上、猫の耳と尻尾が着いたような、筋肉質の男の俺は?
 ジョークとしても、性質が悪すぎる。
 俺が、寺尾サン、に。

「…駄目だ、そんなの。
 俺、そんなの…っ」

 どっちも選ばずに、このまま世を儚んでしまおうか。
 俺一人、居なくなったって。

「……ニシ。
 何で、そんなに自分を卑下してんだ。
 言ったろ? 俺にとって、お前は可愛いんだって」
「けど…っ」
「あのなァ…っ、この、強情っ張りが…っ。
 畜生、言う予定なんかなかったんだよ、こっちは!」

 吐き捨てるように叫んで、寺尾サンに肩を掴まれた。
 予想してなかった力に、俺は小さく悲鳴を上げて。

「いいか、よく聞け。
 おれは、ずっとお前のこと、抱きたいって思ってたんだよ!」
「え…?」

 真正面から、強い目に射抜かれて、一瞬俺は思考も呼吸も止まったような。
 きっと、かなり間抜けな顔をしてるに違いない。
 俺は寺尾サンから一片の冗談も見出せず、数秒後、それが真実だということを受け入れざるを得なくなった。

「えェェ!? だって、寺尾サン…!」

 そんなこと1回も言わなかったし、そんな素振りも見せなかった。
 今、こんな普通じゃないときに言われても、俺にはまともな判断なんて出来やしない。

「言えるわけねーだろうが!
 お前、明らかに俺が男とやってんの見て、男に触られるのも駄目ンなっちまうし…。
 でも、お前、抱かれなきゃいけねーんだろ?
 だったら、仕方ねーじゃねーか。
 お前が自分で言ったんだぜ、俺の事が一番好きだって」

 そこに性的な意味が含まれているのかいないのか俺には分からねェけど、と寺尾サンは括って、それから、俺の返事を待つように、口を閉じた。
 俺はひどく混乱した頭で、取り敢えず、今の寺尾サンの言葉が欠片の嫌悪感も呼び起こさず、それどころかかなり嬉しかったという自己分析をした。
 それは、敬愛する寺尾サンの興味を惹けていたという事から来ているのか、それとも恋愛感情を持っていたからなのかは分からない。
 俺は自分の頭の悪さに辟易しながら、もう考えても埒が明きそうにないと寺尾サンの顔を仰ぎ見る。

「スンマセン、やっぱり俺には分からない…。
 だから、してみてくれますか」

 何を、とは言わなくても通じるだろうし、きっと寺尾サンがそれを拒むことはない。
 もしかしたら、後には悔いが残されるのかもしれない。
 それでもいいかと思った。俺のために言動を制限し、また今、俺のために告白をしてくれた寺尾サンだから、この人に体を預けるんなら、自分に対する嫌忌の念も少しはマシになるかも知れない。

「…わかった。
 俺はお前よりずっと、男とのセックスに慣れてるし、やり方も知ってる。
 ケド、多分痛ェと思う」
「…っス。
 俺だって、どこ使うかくらい、知ってんスから」

 それくらいは、想像がつくと。
 笑える自分に驚きながら、どうすればいいかとベッドに起き上がった。
 脱いでしまった方が良いんだろうか。それとも、本当に何から何まで任せてしまっていいんだろうか。

「いい、俺がやる」

 喧嘩慣れした節の目立つ手が俺の頬に添えられて、僅かな逡巡の後、額にキスが落とされた。
 ……あ。

「あの、何して貰っても、いっスから」

 変に、遠慮とかしないで欲しい。寧ろ、今俺はキスして欲しかったのかもしれない。寺尾サンが俺のコトを好きだって言ってくれたのは、同情からではないって、今間近に見えた目が語ってくれて。
 誰よりも格好良い、俺の憧れてる人。
 もしかしたら、今日だけかも知れない。この人が、俺を抱いてくれるのは。
 …抱いて、『くれるの』は?

「あ…」

 思いがけない自分の思考に、俺は言葉を失って。
 それなら、平気かも知れない。

□■□

「あ…っ、寺尾、サ…っ」
「大丈夫だ、怖がるな」
「んン…っ」

 丁寧に体中を愛撫された。シャツの裾から入り込んだ手は、女性にはない筋肉の凹凸をなぞり、脇腹や胸の上を擦っていく。
 性的な意図がはっきりと読み取れるのに、どこか子どもを慰めるように優しい手つき。するりとTシャツが引き抜かれ、上半身が露わになる。
 寺尾サンの手はハーフパンツのウエストにかかり、俺の表情を確認してからそれをずり下げた。もともと、尻尾が邪魔で腰履きになっていたそれは、ひどく容易く下げられて、巻き込まれたトランクス共々、俺の腿の辺りで蟠った。

「わ…っ」
「こら、隠すな」
「だって…!」

 窓から差し込む日差しで、部屋の中は明るかった。反応を見せ始めているアレの、色や形がはっきりと分かって。
 風呂に入るときでさえ、オレンジ色の薄ぼんやりした明かりの下でしか見ないソレを、こんなところで、寺尾サンに晒している。
 羞恥心で死にそうになっている俺を見て、寺尾サンはチラリと苦笑したようだった。

「わかったわかった」

 バサリ、と音がして、寺尾サンのTシャツが床に落とされた。右の肩から上腕にかけて、和龍が絡みつき、此方を睨みすえている。
 余程腕の良い彫師が入れたのだろう、綺麗な色だった。
 右肩を凝視している間に、寺尾サンはズボンと下着も脱ぎ捨てて、彫像みたいな裸身を見せてくれた。

「綺麗…」
「何が?」
「全部。寺尾サン、綺麗っス」

 これから抱かれようって人間の台詞じゃないって自覚はあるけれど、それでも、言いたくなるくらいに寺尾サンは理想の体格をしていた。
 日本人離れした体型バランスに、俺は手を伸ばしたくなる。
 筋肉のつき方や、身体の所々を覆う体毛まで。身体を起こした俺は、ベッドに腰掛けている寺尾サンの体に触ってみた。
 熱い、張りのある身体。腕や脛はザラリとした女とは違う手触りで、その違和がまた、俺を興奮させる。太腿を撫で上げて、辿り着いたのは緩やかに屹立している雄。
 触っても良いだろうかと迷っていると、上から笑い声が聞こえた。

「いい、好きにしろ」

 顔をあげたら動けなくなるような気がして、俺は黙って頷いた。
 俺のとは、色も形も大きさも違うソレを掌に収めてみる。勿論、収まりきる様な貧相なサイズではないけれど、握ったソレの熱さや、掌に響く脈に、俺は次の衝動に駆られてしまう。

「あ、の…」
「…好きにしていいと言ったろ?」
「ハイ…っ」

 俺はベッドに横座りになったまま、寺尾サンの雄に顔を寄せた。舌先でソレを舐め上げると、ピクリと震えて質量を増したようだたった。
 その反応が無性に嬉しくて、何度も雄の上に舌を閃かせる。すぐにそこは、俺の唾液でびしょ濡れになった。

「…ニシ」
「…ン…っ」

 髪を触られたときに、一緒に耳も撫でられて、思わず息を詰めた。
 俺に新しくついたパーツは、矢鱈敏感なつくりになっているらしい。
 寺尾サンもそれに気がついたらしく、今度は俺の尻尾のほうに手を伸ばしてきた。
 女と違って柔らかくない手指が背中を撫で下ろし、腰を擽って尻尾の付け根に辿り着いた。

「あ…っ、そ、ヘン…っ」

 柔々と擽られた腰から背中にかけてぞくぞくした痺れが走って、俺は上半身を突っ伏してしまう。寺尾サンの股間に顔を埋めるような体勢で、頬のすぐ傍には雄があるんだって分かっていても、与えられる刺激のせいで、既に身動きままならなくなっていた。

「この辺、気持ち良いのか」
「…っ、はい…っ」

 習い性で、こんな時でさえ、寺尾サンの質問には素直に答えてしまう。触られているのは腰だけなのに、身体全身が痺れてるみたいで、じっとしてられなかった。

「も…っ、そこ、ヤ…っ」

 半泣きで訴えると、寺尾サンはゆっくりと手を滑らせて、今度は尻の方へと移動した。とは言え、すぐに割れ目を弄るわけではなく、双丘の部分を柔らかく揉まれただけだった。

「こんな格好してると、すぐにここ触りたくなっちまうな」
「う、あ…」
「…馬鹿、大丈夫だって。
 まだ理性的だからよ」

 冗談っぽく寺尾サンは笑って、俺をベッドに横たえた。覆い被さってきた寺尾サンは、俺の体のあちこちにキスを降らせていく。首筋、鎖骨、肩口、乳首。
 女じゃなくても愛撫されれば感じるなんて、詐欺みたいだ。俺の身体、こんなに敏感だったろうか。

「…怖いか?」
「ちょっと。
 でも、平気っス」

 知らなかった感覚に翻弄される、確かにそれは恐怖心を呼ぶけど、寺尾サンがする行為が、俺を傷つけるわけがない。
 くしゃりと髪を掻き回した寺尾サンは、今度は腰骨の辺りに唇を寄せ、軽く吸い付いた。喉から、小さな呻きが漏れる。

「ん…っ、ふぅ…っ」
「声は出せよ?
 我慢する癖ついたら、後でつらいぞ」

 そう、言われても…!
 普段声を出す習慣なんかない、つい、殺してしまう。
 俺は頭を振って、無理だって訴えたつもりだった。

「…ま、そのうち嫌でも声は出るか」
「えェ…!?」

 に、と笑った寺尾サンは、あっという間に俺の熱を咥えてしまった。

「ちょ…っ、ウソ…っ」
「お前も、したろ?」

 したけど!したけど、それは俺が寺尾サンにだからで、逆ってのはないっしょ!?

「あっ、やぁ…っ。
 そんな…っ、寺尾サ…っ」

 慣れてるって言ったとおり、寺尾サンのフェラは女たちよりずっと的確で、このままいったら最短記録が樹立できそうな。
 逃げを打つ腰はしっかり捕まえられて、我慢も限界に来てる。

「お願…っ、も、許して…っ」
「…イけよ」
「んぁ…っ、やだァ…っ」

 出てくる声が女みたいだとか、泣き声になってるとか、思ったのは寺尾サンの口に出してしまった後だ。
 両手で顔を覆って荒い息をついてたら、今度こそ尻の間に触られた。ぐったりしてる間に脚を開かれて、膝を立てられてるし。しかも、これって指じゃない!

「待…っ、て、寺尾サン!?」

 さっきと同じように脚の間には寺尾サンの頭がそこにあった。多分、さっき俺が出した液体を、穴に塗りこんでる…んだと思う。

「イヤ…っ、ホントに…、ヤダって…っ!」

 いろんな意味で、勘弁して欲しい。そんなところ、触られるだけでも恥ずかしいのに、最初に触ったものが寺尾サンの舌で、その上自分のアレで潤されてるとか、有り得ないって。
 寺尾サンって、絶対サドっ気がある。

「だってお前、ローションとか持ってねーだろ?」
「…って、ないッスケド…!
 こんなの、いやっスよォ…」

 漸く顔を上げてくれた寺尾サンに訴える。でも、こっちの顔は見られたくなかった。
 だって、俺。

「…おい、泣くなよ…」
「…っ、お、俺だって…っ」

 俺だって、好きで泣いてるわけじゃない。
 両腕で目元を擦って、必死で涙を止めようとするけど、随分久しぶりのそれの止め方なんて、忘れてしまった。

「もう、いい、分かった、悪かったって。
 泣いてていい、だからこすンな」

 腫れるぞ?
 笑いながら、寺尾サンは俺の頭を撫でた。ツンツン、と慣れない感覚、何かと思ったら、耳を引っ張られてた。

「寝てる。
 …俺のコト、そんなに怖いか?」

 そんな筈ないって知ってる問いかけ方だった。
 悪戯な寺尾サンの眼差しに、俺もつられて苦笑して。
 いい子だ、と目尻に貰ったキスに、止まった涙に気がついた。

「中、触るぞ?」

 どの中かなんて、訊かなくても分かった。
 長い指が充分に濡らされたそこに潜り込んできて、柔らかく蠢いている。
 内壁にじかに触られる不快感、人生で1回も経験したことのないソレを、どう表現しようか。
 どんなに努力しても竦む体は、内側に触られてることへの自衛なんだろう。
 短い息を継いで、猫っていうより犬みたいな呼吸。ヘタリきってる耳と、毛羽立ってる尻尾は感覚で分かった。
 縋るものが欲しくて宙を掻くと、寺尾サンが抱きしめてくれる。
 ちょっと苦しい、でも、この後は、もっと。
 引き抜かれた指に決めた覚悟は、揺らぐ暇もなく、しっかりと目を合わせて確認された。

「あ、あああ…っ」

 痛い、という言葉すら出てこない。
 遠慮できるほどの余裕もなくて、寺尾サンの背中に爪を立てまくって、圧迫が齎す苦痛に耐える。
 喧嘩してた時に一度ナイフで腕を刺された、それに似た、そして全く違う痛み。  肌が裂ける痛みは、まだ馴染みがある。でも、内臓を押し上げられる苦しさなんて。
 外からぶつかる重さとは、全然違った。

「寺尾サ…っ、…ァっ、あぁ…っ」
「悪ィ…っ。
 苦しいな、痛いよな?
 すまん、我慢しててくれ…っ」

 俺の中に入った寺尾サンも、なんだか苦しそうで、そういえば、バージンやったときには俺も痛かったのを思い出した。
 敏感なトコ、締め上げられれば、当然痛いんだ。

「は…、はぁー…っ、ふ、ぅ…っ、くっ」

 力を抜こうとすれば一瞬成功して、すぐにまた、きゅっとそこは縮こまる。
 自分の身体なのに、思うようにならねェ。

「俺のコトは、気にしなくていい」
「で、も…っ」
「…ま、力抜いた方が、お前も苦しくないけどな…」

 初心者に、それは多分、無理な注文だろうしな。
 俺が聞いてようが聞いてなかろうがどうでも良さそうな口調で呟いて、寺尾サンは二人の腹の間に手を突っ込んだ。つまり、俺のナニを握って。

「あ…っ」
「…やっぱ、萎えてんな」

 くいくいと扱かれて、後ろと前に意識が分散する。こんな激痛の中で勃つとは思えなかったけど、懸命に前に意識を集中させて。
 寺尾サンは、フェラだけじゃなくって手扱きも上手かった。

「…っ、ん…っ」

 俺が力を取り戻し始めたのを確認して、寺尾サンは囁いた。

「……動くぜ?」

 本当なら、まだ待ってと言いたかったけれど、いつまで待ってもらえば痛くなくなるのか見当もつかなかったから、俺はぎこちなく頷いた。

「う…っ、あ、がァ…っ」

 色っぽい声とは、程遠いと思う。
 どうしても痛みの方が勝ってしまって、可愛く喘ぐなんて無理な話。悲鳴を殺すだけで精一杯だ。
 寺尾サンは多分、もどかしいぐらいゆっくり動いてくれて、俺の様子を観てくれたんだと思う。
 でも、いつまでたってもいいとは感じられなくて。

「…っ、う…ご、いて…っ、イって…っ、さい…っ」

 つらそうな、分かった、の後、上がったスピード。
 俺は、寺尾サンがイケたのかどうか、分からないまま意識を飛ばしてしまった。


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